年子とワタシの生活ログ

2014年3月と2015年12月生まれの兄弟と暮らす日常を綴ります。

思い出すのは夏の夕暮れ。『冒険シリーズ』(イーニッド・ブライトン)

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母にはよく「めんどくさい子だねえ」と言われたが、幼少期の私にはいくつかこだわりがあって、未だに強烈に覚えているのは、小学生時代の放課後に本を読んでいたときのものである。

 

普段は使われず、客用としてしまわれている背の高い六角形のグラスにインスタントコーヒーでアイスカフェオレを作り、風通しの良い二階の一角にお気に入りの座布団を引っ張っていき、肩甲骨まであった髪の毛をひとつにくくってから本を開く。

 

やがて母がパートタイムの仕事から帰ってきて、辺りがすっかり暗くなっていることを指摘されるまで、至福の時間は続く。夏は日が長いし、冬はあたたかな場所に人が集まるからテレビや自分以外の誰かの生活音に邪魔されるので、読書には一番好きな季節だった。

 

母は、子どもに良いとされている本を惜しみなく与えてくれた。買ってもらったものもたくさんあるが、大抵は図書館で借りてきたり、古本だったりした。そのほとんどが児童文学の名作であり、これから紹介する本は母が古本市でシリーズ何冊かをまとめて買ってきてくれたものである。

 

イギリスの女流作家イーニッド・ブライトンが書いた通称「冒険シリーズ」は、世界中で読まれているらしいのになぜか日本では肩身が狭く、主に学校を通じての注文図書として売られていたらしい。出回っている最初の4冊でさえもはや市販されておらず、続編に至ってはマボロシの本扱いである。

 

読書のおともにカフェオレを用意するようになったのは、このシリーズと出会ってからだ。フィリップとダイナー、ジャックとルーシィアンという二組の兄妹と、ジャックが飼っている賢くてお茶目なオウムのキキ。学校の休暇に入り、彼らがちょっとその辺へ「探検」しに行くと、とんでもない「事件」に遭遇してしまう。そして、スリルたっぷりの「冒険」が始まるのだ。拳銃を持ったスパイ秘密基地だったり、世界中で暗躍する集団の偽札工場だったり。日本ではちょっと考えられないが、そういう少年少女たちの冒険物語である。

 

外国の児童文学によく見られることで私の心を捉えてやまないのが、主人公たちの”おいしそうだけどなじみのないものばかり”の食事シーンだ。フィリップたちも育ち盛りだけあって三食きちんと何かしら食べ、午後にはお茶もする。崖の上、古城の塔、滝の裏側、洞窟の中・・・。どこで冒険していても、食料がある限り、彼らは決まりよく腹ごしらえをする。ジンジャービア、ビスケット、サンドイッチ、マーマレード、そして色んな缶詰!川に流れる冷たい水でさえ、彼らが飲んでいると大変ステキなご馳走に思える。

中でも一番印象に残っているのは、「冒険の谷」でジャックが発見した洞穴の中での食事だ。この「谷」では、なんと4人は乗る予定だった飛行機ではなく、悪事を企む大人たちの飛行機に間違って乗ってしまい、助けも呼べないような人気のない谷で悪人たちに見つからないようにサバイバルする羽目になる。食料の準備など当然なく、あるのは悪人たちから盗んだ色々な種類の缶詰だけ。ところがこれがなぜかとてつもなくごちそうに思えたから不思議なものだ。ふかふかのコケが生えた洞穴に身を寄せ合って、シダで入り口を隠しながら、おごそかに開けられる貴重なミルクとビスケットとイワシの缶詰・・・い、イワシ??今ならオイルサーディンのようなものかな、と想像もつくが、10歳かそこらだった私にはずいぶんと奇抜な食べ物に思えたものだ。

 

好奇心と想像力をめいっぱいかき立てられながら、いてもたってもいられなくって、当時の私が用意できた最も洋風なものがオシャレなグラスに入れたカフェオレだった。はっきりと覚えてはいないが、きっと私は彼らの仲間に入りたくて仕方なかったんだろう。

 

この4人はそれぞれ個性豊かで、最初から最後まで読み飛ばせるところがない。無類の動物好きで、動物からもすぐに愛されるフィリップはユーモアたっぷりで大胆不敵、鳥類をこよなく愛するジャックは知能派のリーダー、その妹のルーシィアンは兄思いで誰にでも優しくて愛情深く、動物好きな兄とは違いほとんどの動物が苦手なダイナーは勝ち気で行動力溢れるパワフルガールだ。そしてオウムのキキの愛らしくて賢くてお茶目なことといったら!

 

まっことに残念なことに、このシリーズは2014年末を持って廃盤となり、復刻の予定も在庫もないらしい(このレビューを書くにあたって出版社に問い合わせた)。これだけの名作を現代の子どもたちが読む機会が図書館にしか残されていないのはなんとも切ない。だいいち、私が息子たちに読ませたいのになぜか手元からシリーズの1冊「冒険の島」が消えているのである。その上、続編の「船」「サーカス」「川」も手に入る見込みが今のところない。由々しき事態である。かくなる上は古本屋に片っ端から当たってみるか・・・と普段あまり物欲を丸出しにしない私がそこまで思い詰めているのだから、相当なものである(自分比)。

この文章を目にした人がもしいるならば、そしてその人がかつて冒険モノの本を読んでわくわくしたことがあるならば、つつしんでお願いしたい。

 

頭の片隅にこの「冒険シリーズ」をそっと置いておいて下さい。そして学校や図書館を通じて出版社に要望を出せる機会があればぜひ声をあげてみて下さい。

 

わくわくしようじゃありませんか、大人の皆さん!

 

「イタチがポン!」

 

 

イーニッドブライトンのこの小説は、知っている人多いのでは。

ベッツィ・メイと こいぬ

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