思い出すのは夏の夕暮れ。『冒険シリーズ』(イーニッド・ブライトン)
母にはよく「めんどくさい子だねえ」と言われたが、
普段は使われず、
やがて母がパートタイムの仕事から帰ってきて、
母は、子どもに良いとされている本を惜しみなく与えてくれた。
イギリスの女流作家イーニッド・ブライトンが書いた通称「
読書のおともにカフェオレを用意するようになったのは、
外国の児童文学によく見られることで私の心を捉えてやまないのが、
中でも一番印象に残っているのは、「冒険の谷」でジャックが発見した洞穴の中での食事だ。この「谷」では、なんと4人は乗る予定だった飛行機ではなく、悪事を企む大人たちの飛行機に間違って乗ってしまい、助けも呼べないような人気のない谷で悪人たちに見つからないようにサバイバルする羽目になる。食料の準備など当然なく、あるのは悪人たちから盗んだ色々な種類の缶詰だけ。ところがこれがなぜかとてつもなくごちそうに思えたから不思議なものだ。ふかふかのコケが生えた洞穴に身を寄せ合って、シダで入り口を隠しながら、おごそかに開けられる貴重なミルクとビスケットとイワシの缶詰・・・い、イワシ??今ならオイルサーディンのようなものかな、と想像もつくが、10歳かそこらだった私にはずいぶんと奇抜な食べ物に思えたものだ。
好奇心と想像力をめいっぱいかき立てられながら、いてもたってもいられなくって、当時の私が用意できた最も洋風なものがオシャレなグラスに入れたカフェオレだった。はっきりと覚えてはいないが、きっと私は彼らの仲間に入りたくて仕方なかったんだろう。
この4人はそれぞれ個性豊かで、最初から最後まで読み飛ばせるところがない。無類の動物好きで、動物からもすぐに愛されるフィリップはユーモアたっぷりで大胆不敵、鳥類をこよなく愛するジャックは知能派のリーダー、その妹のルーシィアンは兄思いで誰にでも優しくて愛情深く、動物好きな兄とは違いほとんどの動物が苦手なダイナーは勝ち気で行動力溢れるパワフルガールだ。そしてオウムのキキの愛らしくて賢くてお茶目なことといったら!
まっことに残念なことに、このシリーズは2014年末を持って廃盤となり、復刻の予定も在庫もないらしい(このレビューを書くにあたって出版社に問い合わせた)。これだけの名作を現代の子どもたちが読む機会が図書館にしか残されていないのはなんとも切ない。だいいち、私が息子たちに読ませたいのになぜか手元からシリーズの1冊「冒険の島」が消えているのである。その上、続編の「船」「サーカス」「川」も手に入る見込みが今のところない。由々しき事態である。かくなる上は古本屋に片っ端から当たってみるか・・・と普段あまり物欲を丸出しにしない私がそこまで思い詰めているのだから、相当なものである(自分比)。
この文章を目にした人がもしいるならば、そしてその人がかつて冒険モノの本を読んでわくわくしたことがあるならば、つつしんでお願いしたい。
頭の片隅にこの「冒険シリーズ」をそっと置いておいて下さい。そして学校や図書館を通じて出版社に要望を出せる機会があればぜひ声をあげてみて下さい。
わくわくしようじゃありませんか、大人の皆さん!
「イタチがポン!」
イーニッドブライトンのこの小説は、知っている人多いのでは。
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